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書評
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《翻訳小説》
Zの喜劇


ジャン・マルセル=エール
中原 毅志(訳) 
2015.04.10
ISBN:978-4-7733-7963-1
定価 2160円
2015年6月13日 図書新聞

Z級映画への愛着と知識が圧倒的

 『Zの喜劇』というタイトルだけ見ると、ミステリファンならエラリー・クイーンの『Zの悲劇』を連想するだろう。だが、本書はクイーンとは全く関係がない。原題の「セリーZ」とはZ級映画、つまりB級やC級にすらランクされない、箸にも棒にもかからぬ種類の映画を指す言葉だ。主人公のフェリックスは、このセリーZをこよなく愛し、その感想をブログに発表し続け、自らもシナリオライターを夢見ている人物である。
(中略)
 フェリックスの手許には『恐怖のホスピス』というシナリオがあった。元俳優たちが余生を送っている養老院で謎の失踪が相次ぐ、というストーリーだ。しかし、このシナリオのせいでフェリックスは警察に目をつけられる。『恐怖のホスピス』に登場した養老院やその住人たちがなんと実在し、しかもシナリオ通りの連続失踪事件が起きているというのだ……。
 物語はフェリックスの日常(中学校教師の妻や、生後十四カ月の娘と暮らしている)と、彼のブログの記述、そしてシナリオ『恐怖のホスピス』の内容が入り混じりつつ進行するが、妻に頭が上がらず活発すぎる娘にも手を焼いているフェリックスの自虐、ブログの読者たちのいかにも頭の悪い反応、シナリオに登場する老人たちの奇天烈な言動などが相俟って、強烈なブラックユーモアを醸し出している。
(中略)
 フランス・ミステリの歴史には、個性的な登場人物がドタバタ劇を繰り広げるブラックでナンセンスな作風が脈々と受け継がれてきた。ユベール・モンティエの『悪魔の舗道』、ピエール・シニアックの『ウサギ料理は殺しの味』、ダニエル・ペナックの『人喰い鬼のお愉しみ』などが該当する。それらの共通点は、ギャグの中に謎解きの伏線を巧みに紛れ込ませている点だが、本書も「そんなありがちなオチか」と思わせておいて、意外などんでん返しを仕掛けてくる。
(中略)
 本書はZ級映画への愛着と知識が圧倒的である。章のタイトルも含め、本書には夥しい映画のタイトルが引用されているが、信じ難いことにそれらはほぼすべて実在しているらしいのだ。読後、Z級映画を観たくなるという副作用を覚悟の上で手に取ってほしい一冊だ。
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《文芸》
ギャツビー&レノン

アイリッシュ・ソウルの系譜


福屋 利信
2015.03.15
ISBN:978-4-7733-7970-9
定価 1944円
2015年9月19日 図書新聞

ギャツビーとレノンを同じ地平で解釈する大胆な試み
ビートルズと音楽と文学への尽きることのない愛が一貫している


たとえば、ジェイ・ギャツビーとジョン・レノンに備わる神性について。ギャツビーは「プラトン的観念から自己を生み出した神の子」、すなわち自己信頼の人であり、「個人の肉体として現れている神こそ、社会生活における完璧な法則」としたエマソン哲学の実践者である。いっぽうで、「僕は神を信じない、僕だけを信じる」と「ゴッド」に歌ったレノンも、強く自身の神性を信じ、神性は全ての人間に備わっていると考えた。つまり、両者ともに、神性は人間の中に宿るとしたラルフ・ウォルド・エマソンの「自己信頼」を主たる行動規範としていたのだが、最終的にはその超越主義の実践に失敗したのである。
(中略)
両者ともに移民としての宿命を背負い、移民先の社会の底辺に位置づけられた状況から抜け出すために、何が何でも社会階層の梯子を駆け上がろうとする上昇志向をもち、その実現のために、アイルランド民族に特有の想像力で、頂点に立つべく奮闘努力する自己を創造したのだ。
評・石崎一樹
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《エッセイ》
マラソン・ライフを楽しもう

練習をあまりしないランナーでも完走できる!


森村 俊介
2015.02.10
ISBN:978-4-7733-7968-6
定価 1620円
サバンナクラブ・東アフリカ友の会 会報誌「サバンナ」2015年3月号

 サバンナクラブ文化部長・森村俊介さんが今年2月、ご自分の経験からサブタイトル“練習しないランナーでも完走できる!”という本を発刊なさいました。小中時代には体育苦手で一人だけ“D”のことが多かったとか。マラソン大会100回出場記念として書かれたマラソン推奨のこの本は、森村さんのマラソン歴とその達成感の素晴らしさを知るばかりでなく、参加した世界でのマラソン大会主催国の状態などの描写も素晴らしく、一寸した観光案内本より興味深いです。その上色々な大会に関しては本人の説明以外にも、優秀なお仲間たちのエッセイが含まれており、バラエティーに富んでいるので面白く、マラソン嫌いな私でさえも240頁もあるこの本を一気に読破してしまいました。
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《翻訳小説》
一葉の震え

「雨」ほか、南海の小島にまつわる短編集


W・サマセット・モーム
小牟田 康彦(訳)
2015.01.20
ISBN:978-4-7733-7967-9
定価 2160円
2015年5月23日 図書新聞

モームの名作に新しい光をあてる

 『人間の絆』や『月と六ペンス』などの作品で知られるモームには、「南海もの」あるいは「南海物語」と呼ばれる一群の作品がある。それらはおもに南太平洋のサモアやタヒチなどを舞台とする作品群であり、これまで中野好夫訳『雨・赤毛 モーム短編集1』(新潮文庫、一九五九年)、河野一郎訳『太平洋 モーム短編集2』(新潮文庫、一九六〇年)で読者に親しまれてきた。この二つの翻訳以降も、岩波文庫からは朱牟田夏雄訳『雨・赤毛他一篇』(一九六二年)、行方昭夫編訳『モーム短編集(上)』(二〇〇八年)も出版されている。
 こうした名だたる訳者による翻訳があるのに、あえて新訳を出した理由について、「訳者あとがき」では次のような説明がなされている。一つはすでに出版されている訳書は、原書にある八編をすべて訳出したものではないため、重要だと思われる前書きと後書きをも含めて全作品を翻訳したこと。二つ目は既訳のほとんどの賞味期限が切れ、時代にそぐわなくなった箇所も散見されるので、「古い名作に新しい光をあて新しい革袋に入れて提供するのは意義がある」と考えたこと。同じような例として、私の知るかぎりコンラッドの『闇の奥』に関して、中野好夫訳(岩波文庫、一九五八年)を修正するかたちで、岩清水由美子訳(近代文芸社、二〇〇一年)と藤永茂訳(三交社、二〇〇六年)が出されたこおがある。
 ところで、最新訳の本書には前書きの「太平洋」と後書きの「エピローグ」を含めて、ほかに「マッキントッシュ」、「エドワード・バーナードの凋落」、「レッド」、「小川の淵」、「ホノルル」、「雨」と六編の作品が収録されている。すべて南太平洋の島々を舞台とする短編である。イギリス文学のなかで「南洋もの」ということですぐさま想起されるのは、『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』の作者で知られる、ロバート・スティーヴンソンの『南海千一夜物語』(岩波文庫、一九五〇年)である。
 このスティーヴンソンの諸作品と比べてみると、モームの「南海もの」には作者がイギリスの秘密情報部に所属する諜報員でもあったという自己経歴に関係するのか、収録作品の何編かに現地人にたいする白人の帝国主義的な視線が強く感じられるところがある。たとえば、サモアを舞台とする「マッキントッシュ」という短編では、老執政官のウォーカーと助手のマッキントッシュとの、おなじイギリス人同士の確執から自滅までが描かれている。現地人から銃で撃たれて死ぬウォーカーは、独裁的だが温情のある父性的な人物に設定されているが、その統治手法は植民地主義の支配イデオロギーである、「島の現地人を自分の子供と見なす」ことにあるからだ。  「小川の淵」ではイギリスの銀行のサモア支店に勤めるローソンが、ノルウェー人を父とする現地の混血少女、エセルと小川の淵で出会い、恋に落ちて結婚することになるが、異人種間の結婚のいざこざから、最終的には自殺するまでが描かれている。この結婚生活の軋轢からローソンはアルコールに溺れ、いつも泥酔するようになっているのだが、その象徴的なトポスとして布置されているのが「イングリッシュ・クラブ」である。このクラブは外地における大英帝国の排除と特権性のシンボルであり、その意味でオーウェルの『ビルマの日々』と似ているところがある。
 作品集の白眉はいうまでもなく「雨」である。娼婦のトンプソン嬢を更生させようとしながら、ついには肉欲に負けてしまう謹厳実直な宣教師のデビットソン。作品は陰うつな雨が降りつづくなか、宣教師の自殺までを描いているが、終幕でのトンプソン嬢の叫び、「あんたら男ってね、汚らわしい、不潔な豚だ!」という言葉が、いつまでも耳に残って忘れられない。訳文は明快で読みやすく、モームの語りの妙技をこれまでになくうまく伝えている。

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