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[更新日 2017.06.23]
『マンスフィールド荘園』が新聞で紹介されました!
バンクーバー新報 2017年6月1日22号
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 これまで、2冊のジェーン・オースティンの小説を翻訳してきたパーカー敬子さんが、同じくオースティンの長編小説『マンスフィールド荘園』(原題:Mansfield Park. 1814年初版発行)の翻訳本を出版した。
『マンスフィールド荘園』は、貧しい家に生まれ、内気に育った主人公ファニーと、彼女を取り巻く登場人物たちの人間模様を深く描き出した傑作だ。物静かなファニーの幸せの行方を思い、最後まで読み終えるのが待ち遠しい物語である。音楽指導のかたわら、長年にわたってジェーン・オースティン研究を続けてきたパーカーさんに、待望の3冊目の翻訳本について、またオースティン文学について語ってもらった。(取材 ルイーズ阿久沢)

オースティンの力作
 ジェーン・オースティンは18世紀から19世紀のイギリスの中流社会を舞台とした小説で人気を博している女流作家。そこに描かれるのは田舎の上流家庭の日常生活や人間関係だ。
「最初の2冊は何度も何度も読んでいるので、次にどんなセリフが出てくるかも知っていて、わりに早く翻訳ができました。『マンスフィールド荘園』は、オースティンの作品の中ではスケールも大きく、心理的な深みのある長編小説で、いろいろ考えさせられることも多いです。たくさんの登場人物の人間模様を描き出し、善と悪の闘いを追い続ける力作であり傑作です。ぜひ訳さなければと思いましたが、ほかの仕事による中断もあり、前2作より1年余計にかかってしまいました」
 当時の英国のしきたりや相続税のしくみ、歴史などの説明を丁寧に添えた。たとえば『荘園は英国貴族上流階級の所有する広大な領地で、家族の住む邸宅のほかに小宅、土地管理人の家、狩猟管理人の家、教会及び牧師館、その他の建物があり、森林はもちろん、需要な財源である植林地もある。敷地の中に1、2の村が存在することもある』。
苦労のヒロイン
 『エマ』のヒロイン、エマ・ウッドハウスは裕福な家庭に育ちのびのびとして明るい。自分には縁結びの才能があると思い込み、恋愛の橋渡しに夢中なお嬢さまだ。『説得』のアン・エリオットは、やさしくてきれいな上に自己の向上を計り、人からも信頼されている。8年半、ウェントワース大佐を思い続けたという内面も外見も美しいヒロインである。
 それに対し『マンスフィールド荘園』のファニー・ブライスは貧しい家に生まれ、10歳のときにマンスフィールド荘園の主パートラム准男爵である伯父伯母に引き取られた。ふたりの令嬢とは待遇も違い小間使いのように仕事を押しつけられ、社交界にも出してもらえないなど、終始肩身の狭い思いをし内気に育った。
 「その中で重要な役割を果たしたのは、いとこのエドマンドです。ファニーに思いやりを見せ、読書を勧め、知識と正しいこころを持つ女性へと導きました。ちょっとシンデレラ的なところもありますが、ただのおとぎ話ではなくパートラム家の令嬢ふたりよりもファニーのほうが人間的に格の高い女性へと成長しました。ヒロインとして十分な資質を備えています」
婚活する女性たち
 オースティンの作品には結婚相手を探す娘や、良縁探しに奮闘する母親や伯母が登場する。ほとんどの女性が自活する力を持たなかった時代、結婚相手次第で人生が変わってしまうからだ。
 『メアリー・クロフォードには2万ポンドの財産がある』『エドマンドの年収は700ポンド』『マライア・ウォード嬢には7千ポンドの持参金しかなかった』など、あからさまに他人の財産を語り合う。「それが当時のありかたで、世間の人はみな、そのように人を評価したのです。オースティンは、そういう社会を広い意味で皮肉っているわけです」
会話による人物像
 オースティンの小説の魅力のひとつは、会話の素晴らしさだという。会話によって人物が描き出されるのである。
 ファニーをそばに置きたがる自分勝手なパートラム令夫人。節約家のノリス夫人が取る、こっけいな行動。それに加え家庭内で劇を上演するエピソードでは、実生活上の若い男女の思惑や嫉妬、利己主義が克明に描き出されている。
 パーカーさんが、この本は2度読んでほしいと話すように、深い読み込みをすることによって人物の裏の動機が見えてくるのも興味深い。
 「オースティンは小説の中でいい人も悪い人も書いて、社会はこうだけれど、それに対してあなたはどう思いますか、ということを問うているわけです」
文学の翻訳とは
 翻訳にあたり第一にしていることは原文に忠実であること、それを正確に伝えること。
「文学の翻訳では直訳はだめなのです。むずかしい言葉があちこちに混ざっているので、人のこころに沁みこまない言葉だと雰囲気が出てきません。何度も読み返して、そのつど言葉を替え、ごつごつした感じではなくスラスラと読めるわかりやすい日本語に仕立てていきます。そのための努力をし、その工程が大変なのです。一語だけかもしれないけれど、私にとってはやりがいのある仕事です」
 きれいな英語を書いている作家には、きれいな日本語をつけるべきで、作家にあわせる努力が必要なのだという。
 この作品ではオースティンの『私』という言葉が、前後6〜7回出てくる。最終章では『私のファニー』と呼ぶ。パーカーさんは「自己投入のあまり我を忘れて書いた言葉でしょうか。それほどファニーの身の上を思いやるあまりに自然に湧き出た表現ではないでしょうか」と解説する。

 引っ込み思案のファニーにはひそかに思いを寄せる人がいるが、後半ではファニーに言い寄る裕福な男性が現れ、周囲からのプレッシャーも加わる。
 物静かな主人公の幸せの行方を思い、最後まで読み終えるのが待ち遠しい一冊である。


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オースティンの最大傑作との呼び声も高い、人間のありよう・生きようを追求した名作。――上流階級の家族の居候として、息をひそめるように過ごしていた少女ファニーは、篤い信仰心を持つ美しい女性に成長する。複数の男女による愛の駆け引きの中、ファニーの秘めた想いの行方は――。

《翻訳小説》

『マンスフィールド荘園』

ジェーン・オースティン
パーカー 敬子(訳)
2017.03.30
ISBN:978-4-7733-8031-6
2800円(税抜)

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